司馬専太郎エッセイ10
ドクターの夏休み■シアトル・マリナーズ編
9月3日は,待望のマリナーズ観戦です。日本から携えた野球グローブを持って,セーフコ球場に向かいました。途中で,東京の三原一平先生と彼の教授の山田教授夫妻をピックアップ。一平先生は,僕の留学仲間で,研究室と下宿を往復する生活を1年通した超まじめ先生です。ダウンタウンの宇和島屋という日本をそっくり移して来たかと思うほどの百貨店,食料店で,待ち合わせ。日本と違うのは,魚屋さんにサーモンとかグイダック(貝),ダンジェナスクラブ(蟹),などのシアトル特産が並び,店員の日本人の3世,4世の日本語が,ややあやしいところです。電化製品コーナーでは,電気炊飯器,「こたつ」,「ふとん」などがアメリカ人に人気があります。本屋は紀ノ国屋書店が入っています。以前は日本のテレビ番組のビデオなどが借りられ,紅白歌合戦や,大河ドラマなどを1週間借りたものでした。ビュッフェコーナーで野菜炒めセットの様なディッシュを注文すると,日本の倍はあろうかと言うほどの量です。一平先生とと教授夫婦を探すと,スターバックコーヒーの大きなコップを片手に休憩中でした。近くの道路にレンタカーをとめて,球場まで10分ほど歩いて到着。僕と鈴木先生は,3塁側内野席へ。教授たちは,2階のボックス席です。席を探していると,さっそくカーンと乾いた音がして,選手の練習のファウルボールがやってきました。もうすでにグローブをはめていた僕達は,「それ!きた」とばかり,腕を伸ばします。残念ながら5mぐらい離れて落下。アメリカの球場は日本と違って,内野席の前に防御ネットはなく,ちょっと危険ですが,試合前の練習からファウルボールがもらえますので,皆楽しみにボールの来るのを待ちます。怪我も心配ですが,どうやらボールがあたったほうの責任らしく,いちいち注意のアナウンスや笛もありません。応援は拍手や,“We love Ichiro!!”などと書かれた手作りの大きなメッセージが中心。時折,球場のハモンドオルガンが鳴るだけで,太鼓やトランペットの応援がなく耳をいためる心配もありません。ピッチャーとバッターの息詰まる真剣勝負や,快い打球音が楽しめます。我々は前から9列目でしたが(ちなみにチケット代は35ドル),ファールグラウンドは意外と狭く,フェンスも低いので,最前列では,観客が練習中の選手や,かわいいボールガールとなにやら会話しています。きっと「ボールが転がって来たら,私にくださいね。」などと言っているのでしょう。グランドとなるべく垣根を作らず観戦が楽しめる様な配慮です。試合開始時刻がせまり,席は満員になりました。しばらくすると,大きな声の売り子が来て,ポップコーンを注文すると,遠くから袋ごと投げて来ます。お代は,観客が隣どうしのバケツリレーならぬドル札リレーで売り子に渡し,おつりのコインもコインリレーで帰って来ます。ポップコーンを開けて,なんだかアメリカがプンプンしてきたところで,起立の合図。アメリカ国家斉唱です。始球式は,2人の老人でしたが,マリナーズの名選手らしく観客の暖かい拍手に元気よく答えていました。アメリカでは,古き英雄をたたえる風習があり,大事にされています。
さて,いよいよ試合が始まり,イチローもライトで,いつもの屈伸運動をしながらプレーボール。1回の表,相手チームのタンパベイは,若手のチームだけあって1番が20才の細身の選手,鈴木先生が,「まるで,高校生ですね。」などいっている間に,内野安打から盗塁。そしてヒットで,すでに1点先行されてしまいました。なかなか手ごわそうな相手です。その裏,一番イチローがバッターボックスに登場です。例によって右手でバットを天高くつきあげ,左手で右の袖をまくるルーティンののち,あっという間に,センター前にヒット。鈴木先生がカメラを構える間もものかわ,盗塁から犠牲フライで,ホームに帰ってきてしまいました。同点です。マリナーズは良い選手をとったものです。
その後は,淡々とした投手戦がつづき,8回についに相手のソロホームランで均衡やぶられ2対1となり9回裏マリナーズの攻撃へ。このまま負けるかと思ったところ,キャメロンのヒットで2対2の同点となり,延長戦になりました。そして10回の裏,1塁ランナーがでた後,イチローの番です。すごい応援です。センターの電光板に“Make noise louder! メのコール。2球目に1塁ランナー盗塁で2塁へ。そして3球目にイチローが打ちました。ショートへの内野ゴロ。懸命に1塁へ駆け込みセーフ。イチローらしいヒットです。ランナーが1塁3塁,そして次のバッターの内野安打で遂に「さとなら」ゲームでマリナーズが勝ちました。4万5千の大観衆や鈴木先生も興奮して,スタンディング。こぶしを上げて大喜びです。グランドでは佐々木投手が外野のブルペンから駆け寄って来て,イチローと握手。この日イチローは日本で作った自身のシーズン最多安打数を更新しました。
さて,教授たちと,正面横のマリナ−ズグッズ店で待ち合わせ。一平さんが来たので,「よかったですね。イチローのヒット見ましたか。」と尋ねると,「それが,2回とも見てなかったんです。最初は皆さんの夕食を買いにバーベキューコーナーで並んでいたんです。」「じゃあ,最後はいかがでした。」と聞くと,「実はホテルに電話して,明日のカナダ,ビクトリア観光のフェリーの手配を頼んでいました。試合が延長で,ホテルのインフォメーションが閉まるといけないと思ったものですから。」とあくまでも,教授御夫妻のガイド役に徹していて,「あっぱれ,一平先生」と心の中で喝采を送りました。そのうち教授が,イチローのジャージをたずさえて「いやー,素晴らしいゲームでした。」と,ビールの入った真っ赤なお顔で御満悦。帰りは,ホテルまでお届けしましたが,教授夫婦と一平先生は車の中で,すやすやとお眠りになっていました。一平先生ご苦労さまですが,もう1日ビクトリアで頑張って下さい。明日は,僕達は日本に帰ります。