司馬専太郎エッセイ14
ブッシュさんとオサマ君の巻


■ブッシュさんとオサマ君
この2人は今世間を騒がせている重要人物ですが,この2人を診た医者は,世界広しと言えども,司馬先生だけでしょう。ブッシュさんは,今のアメリカの大統領ジョージ・W・ブッシュのお父さん。そしてオサマさんは,オサマ.ビンラディンではなく,アラブの豪族の御曹子オサマ・サルマン君です。
ジョージ・ブッシュさんと奥さんのバーバラさんが名古屋に来たのは,1995年。アメリカ大統領の任期を終え,あるキリスト教団体の招請講演のためにお忍びで来名。名古屋城の周りにある大きなホテルにお泊まりになりました。彼には持病があります。大統領として日本を訪問した時,皇居で皇太子様とテニスをしたあと,晩餐会で心臓の不整脈の発作で倒れ,退席を余儀なくされました。発作性頻拍症です。
それ以来,シクレットサービスがいつも除細動器を持ち歩いています。すなわち心臓の鼓動が乱れたり,止りそうになった時使用する器械です。ブッシュ元大統領の滞在中に何かあってはいけないと,名古屋のアメリカ領事館からわが病院を救急の際の入院病院に指定したのです。来名は1995年1月の土曜日と,日曜日でした。その前日,金曜日の午後,シークレットサービスの2人が,病院に下見にやってきました。さっそく司馬先生が呼ばれ,応対しました。
まず,救急診療室を紹介。次いで,特別病室に案内しました。ホテルと名古屋城が一望できる一泊5万円のお部屋です。「ディス,イズ,パーフェクト。」とシクーレットサービスのお墨付きをもらいました。次に,「ヘリコプター発着場と記者会見場は,どこですか?」とのお尋ねだったので,屋上と地下の会議室に案内。最後に「携行した除細動器をいっしょに点検しましょう。」と言うと,「こちらには持って来てないので,ホテルにご案内します。」というので,リムジンに乗ってホテルへ。ホテルのスイートルームの一室で点検していると,例のブッシュさんがにこにこしてあらわれました。運動の格好をしていました。「ブッシュさんですか,はじめまして司馬です。」というと,「ドクター,御苦労様です。ぜひ,こちらで一服おやすみください。」といわれるので,「じゃあお言葉に甘えます。ところでお体の具合はいかがですか。」とドクターらしくいうと。「いま,毎日ジョギングして快調です。さっきも,シクレットサービスの方といっしょにお城の周りをジョギングしてきました。すばらしい景色ですね。こんなところで働いているドクターがうらやましいです。」とおっしゃるので,つい調子に乗って,「はい,僕もお昼にはジョギングして,テニスにそなえているんです。」というと「こんどは,旅行が短くテニスはできませんが,今度来た時は,御一緒にテニスでもしましょう。」とのこと,外国人は社交辞令がお上手ですが,まんざらでもなく「イエス,シュア(いいです)!」など,言って「それでは,私に用事の無い事を祈ってます。お元気で。」と,僕のポケベルの番号を教えて,ホテルを出ました。あとから,アメリカ領事館から感謝状が届きましたが,まだ,テニスの招待はブッシュさんからは届きません。後から思えば,白衣の背中にブッシュさんのサインでも書いてもらえば良かったかなと思っています。
さて,オサマ君ですが,この春,原因不明の高熱で入院しました。かれはサウジアラビア石油株式会社の御曹子で,今,日本の大学に留学中です。さて,緊急入院の晩,看護婦さんからの電話で,「先生ですか?12号室のオサマさんが,さっきからお風呂に入れさせて欲しい,そうでなければ帰ると大変なんです。一度来ていただけますか。」と呼び出しです。やれやれ,と病室に行くと40度もの高熱でふうふう言って,オサマ君が布団をかぶって寝ているので,「もしもし,主治医の司馬です。診察します。」と,英語で声をかけると,弱々しい声で,「すみません,熱があって,体が汗ばかりかくので,シャワー使わせて下さい。お願いします,さっき看護婦さんに頼んだら熱があってダメです!!。とそればかり。もうお家に帰りたくなりました。」というので,「しょうがないですね。熱があるのでシャワー浴びると,病気が悪くなるかも知れませんよ。」と念をおすと。「熱があってもシャワーだけはイスラム教アラーの神の教えです。」などと,分からない事を言うので,「今は,午後の10時でもう消灯です。お風呂は閉まっています。むむむ,,,,よし,じゃあ僕の白衣を貸してあげますから,ついて来て下さい。看護婦さんにはないしょですよ。」 といって,看護詰所の前を通らずに,裏の階段から3階の医師控え室にあるシャワー室に案内しました。2〜3分すると出て来て,「サンキュー,ドクターさっぱりしました。これで良く寝られます。アラーの神様にも怒られません。」など,喜色満面で病室に戻って行きました。
次の日,回診すると,にこにこして「ドクター,昨夜はありがとう。熱も引きました。病気よくなります。」と元気そうなので安心しました。そんな時,看護部長から呼び出しです。部長室に行くと,看護部長と病棟の看護主任が困った顔で「先生,またですか,皆知ってますよ。患者をお風呂にいれて。」と大目玉をくらいました。国際親善も楽ではありません。

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