司馬専太郎エッセイ15
おかしな編集長の巻

おかしな編集長
山内さんは,あるスポーツ新聞の編集長です。
たまたま,この地方で大きなプロゴルフ大会があり,小生の父が,大会役員をしている関係で,前夜祭に出席するはずが,前日に腰を痛めてしまい名代で,私が出席する事になりました。プロの選手にも会えるし,ひょっとしたらその場でインスタントレッスンなぞ期待して出席しました。開会宣言のあとアトラクションが始まり,谷村新司さんなどの歌手も飛び入り参加して大いにもりあがりました。帰り際にスポーツ記者の加藤さんと久しぶりに会い以前,高木監督が,透析室へ慰問していただいた際のお礼など話していると,編集長がやってきて,「先生ですか?,以前おたくの息子さんが,うちでバイトしていたんですが,今元気ですか?」とおっしゃるので,「その節は,お世話になりました。いま,シアトルにいるんです。」と答えると。「あ,そうですか,いまうちの古井という記者が行ってるんで,さっそく連絡させます。いやー英語が出来なくて苦労してるんです。」など,会話がはずみましたが,「ところで先生,実は私は糖尿があるんです。もうかれこれ5年も言われてるんですが,なかなか病院にいけなくて,,」とおっしゃるので,ああ,糖尿病なら私が専門です。明日にでも病院に来ませんか。」と答えると。「いいですか,御伺いして,実は,午後4時に編集会議が終わると,あとは記事が入ってくるのを待つだけなので,いつも一杯飲みながら,8時頃まで居酒屋にいるんで,その時間だったらヒマなんで。」と,のっけからなにやら,(病気が)悪そうな予感です。
次の日,山内さんがさっそく病院に午後2時頃みえて,時間外だったのですが、診察と検査をしました。その結果案の定,血糖値330mg/dl,ヘモグロビンA1c12%とでました。「いやあ,山内さんかなり悪いですね。入院されますか。」というと,「いや,それは御勘弁を。なんとか治してみせますから。」とおっしゃるので,「じゃあ,ちなみにまずお酒を減らして下さい。それだけでも違いますよ。」というと,「実は,お酒は前からやめようと思っていたところです,先生に言われて目が冷めました。」と殊勝な態度。「じゃあ,入院はひとまず考えない事で,食事療法を御指導します。肝臓の数値も測っておきます。おだいじになさって下さい」といって,第1回目の診察が終わりました。2週間の後,診察に見えると,「先生たいへん体が楽になりました。いやあ,お酒をやめたんです。すごく調子良くなりました。こんなに御飯がおいしいかったとは今さらながら感じます。ところで数値の方はいかがですか?」「はい,血糖値は180,ヘモグロビンA1cは10%に下がっています。でもこの前の肝臓の数値とくにガンマGTPが1600もありました。」というと,山内さんもびっくりして,「1600ですか,ショックです。いやあ先生に会えて良かったです。助かりました。命の恩人です。先生!,いちど一緒にのみに行きましょう。」とおっしゃるので,「山内さん,だめです!いまお酒やめるといったでしょう。」と答えると。「すみません,すみません,つい口癖で。あまり嬉しかったものですから。」と。今度は,一月たって,山内さんが見えたので,「節制の方は,どうですか,うまくいってますか?」とたずねると,「先生,ばっちりです,快調そのものです。お酒をやめて一月ですが,体が軽くなりました。すこし,散歩もしてます。ところで肝臓の数値はどうですか?」と。「今日は,至急検査で出してますが,γGTPは120に下がりました。あと一息です。ヘモグロビンA1cも8%に下がっています。山内さんやれば,できるものですね。」と言うと。「ありがとうございます。実に助かりました。先生にお礼しなくちゃ。こんどぜひ,一緒に飲みに行きましょう。星野監督も一緒に。」というので,「山内さん,いったでしょうお酒はダメです。!」と,いうと「ああそうか,つい口癖で。」といつもの調子です。また,一月たって山内さんの診察です。「先生,快調そのものです,γGTPはいくらですか?」と積極的です。「70に下がりました。後一息です。ヘモグロビンA1cのほうも8%で,もう一息です。」というと。「じつは,最近星野さんが,悩みがあるらしくてちょくちょく,僕を呼び出して,飲みに行くんです。」と,白状。「そうですか,でももうすぐシーズンオフですから,頑張りましょう。」というと,そうですね「いつも,星野さんとはいつもオフに,東北の温泉に行くんです。」「それじゃあ,おつきあいも程々に,特にくどい様ですが,お酒には注意してくださいね。」と言って,いつものお薬を処方しました。星野さんも監督をおやめになったことですし,お二人の東北温泉珍道中が目に浮かぶようで,「じゃあ,ごゆっくり静養なさって下さい。かえってこられたら,また寄って下さい。数値は正確ですからね。」とくぎを差しておく事も忘れませんでした。編集長もなかなか大変な仕事ですね。

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