純ドイツ製レンズ群
Bバヨネットマウントのレンズは、伝統あるカールツァイス・イエナ製とペンタコン製(主に旧メイヤー・ゲルリッツ製)の単焦点レンズを中心に豊富にラインアップされた。純ドイツ製レンズが活用できることは、プラクチカの最大のセールスポイントといえるだろう。(別表)
M42スクリューマウントと同一設計のレンズもあるが、50mmFI.4とF2.4、28mmF2.4ならびにF2.8、マクロ55mmF2.8は新開発のものである。M42スクリューマウントでは、カールツァイス・イエナ製レンズには伝統のテッサーやゾナーをはじめ、広角系はフレクトゴン、標準・長焦点系はパンカラーなどの名称が付されていたが、Bバヨネットマウントではすべてプラクチカール(PRAKTICAR)に統一された。

イエナ製とペンタコン製レンズ
Bバヨネットマウントのプラクチカール・レンズの外観は一新された。フォーカスリングにユニークな半円球状パターンを配したラバーリングを装着。ピント合わせはスムーズだ。すべてのレンズには中間絞り位置にもクリックストップが設けられており、社内呼称T3Mというマルチコーティングが丹念に施されている。
カールツァイス・イエナ製のレンズは繰り出し量の大きいものが多く、標準50mmF1.4で近接36センチ(旧タイプ)といった具合に接写がきく。また、大判用のレンズのように前玉が前枠先端ぎりぎりまで突出しており、フィルターを装着するとレンズ面に接触しそうになるものが多い。カールツァイス・イエナ製レンズはバヨネット爪内面の切込み加工等にスムーズな着脱のための配慮が見られる。絞り羽根は、カールツァイス・イエナ製はレンズシャッターの羽根のような光沢があるが、ペンタコン製は艶消し処理がされている。
ただし輸出などへの配慮、あるいはVEBカールツァイス・イエナへの一元化などが実施されたためか、同一製品でもメーカー表示は必ずしも一定しないようだ。写真の28mmF2.8ように、同一レンズで、カールツァイス・イエナとペンタコンの2つのネームが存在するものもある。また、50mmFI.8とF2.4、28mmF2.8、135mmF2.8などの量販レンズの後期タイプは、外筒がフォーカスリングの滑り止めパターンまで一体成形のプラスチック製となっている。なお後期タイプでは、レンズ名称のPRAKTICARが省かれ、頭文字のPのみが記されているものがある。
不思議なことに、Bバヨネットマウントのプラクチカール・レンズ群には、製造ナンバーらしき連続的に設定された番号が見当たらない。標準レンズでもわずか4〜8ケタの数字がマウント部に印字されているだけである。新しいもの、古いもので番号が前後していることもあり一貫性が見受けられない。
個々のレンズを子細に観察すると、細部に異なる部分が見受けられ、大量生産ではなく一本一本をハンドメイド感覚で製造されていることが推測される。たとえばカールツァイス・イエナの50mmF1.4の旧タイプ(レンズ前枠周囲にネーム刻字)の2本を比べてみると、外見はまったく同一にもかからわず重量が約1割、30グラムも異なっている。重量が重い方はヘリコイドの繰り出しの感触も重いので、おそらく鏡胴の材質が真鍮とアルミというように異なっているのだろう。
各レンズの描写は、ドイツ製らしいコントラスト重視の格調あるもので、カールツァイス・イエナ製もペンタコン製も、実写ではほとんど見分けが付かない。個々のレンズそれぞれに味わいがあるが、標準系のレンズは開放付近ではややソフトで、少し絞りればきわめてシャープになる。
どのレンズも、トーンが豊富で立体感に優れ、カラー再現も美しい。ボケが自然でやわらかく、広角系にディストーションが目立たないのも美点だ。解像力そのものが優秀なことはもちろん、写真としての表現力が素晴らしい。それぞれのレンズに独特の味や雰囲気があり、使い込むほどに愛着が湧いて来るようだ。


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