■新設計のシステムカメラ用ボデー
このカメラは、一般にはほとんど知られていない独自設計の35ミリ一眼レフで、注目すべき点がいくつもある。ボデーは全体に小型軽量化されており、内部はダイキャスト製、外装は黒塗装の強化プラスチック製である。シャッターは、上下走行式メタルフォーカルプレーンで、シャッター羽根が扇形に作動するタイプである。おそらくシチズン製だろう。シャッター速度は、メカニカル作動の一速で、おそらく1/100秒(X同調速度)程度である。エプロンの下横には、フラッシュシンクロ用のPCソケットも設けられている。ファインダーは、左右のボタンを押すと上へ外れる。従来の後部へのスライド式を改めたのは、シャッターメカニズムの背丈が高くなったためだろう。ファインダースクリーンも交換式である。円形の視野や横のデータ確認窓、円形の撮影像などは、従来機種と同様である。軍艦部にシャッターボタンが見あたらないが、正面右の通常はセルフタイマーに相当するレバーを引くと、手動でシャッターが切れる。下部に専用ワインダーが三脚穴を利用して装着されている。ワインダーそのものは別付けだが、底部左で電気基盤がボデーと繋がっているため取り外しは困難である。背面のダイヤルにより、毎秒1コマ、2コマ、連写、単写が切り替えできるようになっている。電源は、レンズマウント内部の電気接点から供給されるらしく、詳細は不明である。おそらく医療機器の方から、シャッターレリーズや巻き上げなども完全制御できるようになっているものと思われる。トプコンMT-1は、医療機器との連動をよりいっそう進めた新世代の35ミリ一眼レフボデーであり、一般撮影用のシステム一眼レフとして発展できる資質も秘めた注目すべきカメラといえる。■トプコンREスーパーの後継機になり得る資質
1963年に登場した東京光学のトプコンREシリーズは、世界初のTTL開放測光をはじめ、ファインダー交換、無調整のモータードライブなど、歴史的なシステムカメラとして知られている。しかし、1972年のスーパーD、1973年のスーパーDM以降の発展はないままに終わってしまった。また、コパルスクエアシャッターを搭載した普及機シリーズとしては、1965年にトプコンRE-2、1976年にトプコンRE200を送り出し、その後、ワインダーに対応するようバージョンアップしたトプコンRE300、さらにAMバヨネットマウント(Kバヨネットマウントと同一)に改めたトプコンRM300を最後に、1982年には一般向けカメラ製造から撤退してしまった。しかし、このトプコンMT-1は、前述のメタルシャッターを搭載した普及機のトプコンRE200/300とは全く異なる設計である。ボデーの骨格も断面形も改められており、デザインもトプコンRE-2のような精悍さがあり、細部もより洗練されたものになっている。トプコンMT-1のシャッターに一般仕様の速度変更可能なものを搭載し、シャッターダイヤルと、レリーズボタンを配すれば、そのまま小型軽量の高級システムカメラとして通用する資質を備えているといえる。すでにマウント内には自動絞りレバーも設けられており、シャッターと連動して通常通りに作動している。おそらくレンズマウントは、トプコンAMバヨネット(Kバヨネット)を採用し、トプコンの新世代のシステム一眼レフとして、登場することも考えられていたのではないだろうか。ワインダーについても、単三乾電池4本を収納できる電池ボックスに相当する部分が設けられており、前述のファインダー交換機能と相まって、システム一眼レフとしての機能は充分である。眼底カメラというごく限られた市場だけのために、専用のカメラボデーが新規開発されたとは理解しにくい。トプコンMT-1をベースにした一般向けの一眼レフが陽の目を見なかったのは、社内的な事情があったのだろうか。トプコンファンとしては、たとえ高価で限定的であったとしても、ぜひ一般向けの仕様も発売して欲しかったというのが、正直な気持ちである。■現在もトプコンMT-10として健在
眼底カメラの世界もデジタル化が進行しており、撮影に使用するカメラは主流がデジタルカメラに移行しつつあるようだ。しかし、現在もトプコンMT-10というバージョンアップされた35mmフィルム使用のカメラが健在である。外観は、ファインダー前面のTOPCONの文字が、CI導入後の2つの楕円を串刺しにしたロゴマークに変わっている。たぶんこれが、最後のトプコン製のカメラということになるのだろうか。眼底カメラの付属品ということなので、お大尽のトプコンファンならぜひ1台(一式?)買ってほしい。(2001.4.6)■実はマミヤZEをベースにしたOEM
このカメラの謎が解けました。東京光学機械〜トプコンのカメラ設計者/広報担当として長らく活躍された白澤章茂氏の近著「トプコンカメラの歴史〜カメラ設計者の全記録」に経緯が紹介されていた。カメラ製造から撤退したものの、医療分野のトプコン眼底撮影装置に付属するカメラボデーは必要であり、マミヤの協力でOEM調達した模様。そういえばボデーの骨格など、マミヤZEと同一であり、眼底カメラには不要な自動絞りレバーが内蔵されているのも合点がいく。(2008.3.9)